なぜ今、「編集長の部屋」を始めたのか?

編集長の部屋
2014.06.06

<編集長の部屋 Top>

「編集長の部屋」は、変化が早く、深くて厳しい漫画家の世界で、新人がプロになる方法を学ぶ場所です。

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トキワ荘プロジェクトは2015年8月現在で活動約8年。東京と京都に26軒の一軒家を借り上げ、プロマンガ家を目指すマンガ家志望者や新人作家に、144部屋程のシェアハウスを提供しています。

入居している新人作家の人数は平均して約130名程、3年の入居期限を目途に卒業した人も含めると、360人以上に住居提供や講習会実施、定期面談などの支援をして参りました。

現在、メジャー誌や単行本に自分の名義でデビューした新人は52名。1割強の人がメジャーデビューしたことになります。(*1)

そんな活動の中で、常に感じ続けて来たのが、雑誌や電子媒体と新人の関係、つまり「編集者」と「マンガ家志望者」の関係の難しさです。

一作品目から天才的にデビューするもの、多くの作品を描いて苦労の末デビューするもの、そして、多くのデビューできなかったものを見てきました。デビューした後にプロとして軌道に乗せる所の方が実は難事業ではあるのですが、それでもデビューにも漕ぎ着けない人間のほうが多い厳しい現実は、数字として実感しています。

マンガ誌を作る編集部と言う組織の構造を理解せずに、正しい努力の方向性が判らないまま、無為に時間を過ごし、夢を諦めた若者を数多く見てきました。

プロの作家になる為に、努力することは、最早当たり前です。努力すれば必ず報われる訳ではありませんが、努力をしなければ100%確実にプロになることは出来ません。その努力も、正しい方向性で、正しい相手に向けて、努力しないと無駄になります。

現在、マンガ雑誌や電子コミックを発表できる媒体・サイト・アプリは、100を優に超えます。その中で、新人がどうやってプロの作家になるか、どこにどう作品を持って行くのか、そもそも、編集部とはどんな組織なのか、など。伝えたい情報は沢山あります。

 

漫画誌編集部の中でもっとも影響力を持っているのは編集長です。これは、一つの会社で例えれば社長の役割のように、雑誌の方向性を決め、掲載する作品を決め、雑誌が出した結果の責任を取ります。

その編集長の言葉から、新人に見えにくい事、どうしてよいか判らないことを、整理して提供する場を「編集長の部屋」と題します。「正しいマッチング」と「正しい努力の見つけ方」が得られるようにしたいと考えてます。

 

■マンガ家は究極のフリーランサー。その「正しい努力」「正しいマッチング」とは。

トキワ荘PJが取材をうける際に、良く、フリーライターさんがインタビューにお見えになるケースがあります。
その際にお話しすると、深くうなづかれるフリーランサー論があります。

 

ライター、編集者、Webなどのデザイナー、プログラマーなどなど、フリーで働く方々は、企業で経験を積み、技術的なことや社会人としてのスキルを積んで独立される方が多いです。場合によっては、独立後に、自分が所属していた企業や、その際の取引先などを、見込顧客となる営業先とし、仕事をもらいながら、自分なりのフリーの仕事を確立する形が一般的です。著者の私も、実は今の仕事に就く前は1年間ほどフリーであった期間がありました。全く新しい仕事と言うものはそうはなく、昔の職場や、過去に関係のあった方から仕事をもらって食べていました。

一方で、現在のマンガ家志望者は、良い先生のアシスタント先に恵まれるということのない限り、仕事のスキルも取引先も、ほぼ独自に見つける必要があります。マンガを描くという最もコアなスキルアップの機会は、自分の作品作りを通して学びます。編集部に持ち込む・投稿する。Webに自分の作品をアップしてスカウトを待つ。同人販売会で、自分の作品を販売するなど、多様な営業機会はありますが、いずれにせよ、上司も組織もない、ゼロからのスタートです。

つまり、マンガ家は、経験のないままプロの大海に飛び込む、究極のフリーランサーなのです。

 

特に、若く、経験の浅い志望者にとっては、この点は「自分の努力が正しい方向」であるかどうかを模索することが、非常に難しいです。自分の作品が、各編集部にとって価値のあるものなのかどうか、自力で図ることは大変に難しく、人によっては雑誌の編集者さんを「地獄の門番」のごとく恐れている場合もあります。本来は、伴走者としてともに仕事をし、良い作品を作るために協力する「一番最初の読者」である編集者さんを恐れてしまうのは、以下が原因と考えています。

 

1、経験不足から来る、無用な不安(正しい努力の見つけ方)

本来、貴重な意見であるはずの編集者のコメントを、自作や自分の人格への批判と捉えてしまい、冷静に次の仕事のステップを持って帰ることが出来ない。

持込とはつまり「打合せ」です。これは、社会人経験があれば、仕事の一つとして淡々とこなせますが、自分の作品や、自分の人格に対するテストだと勘違いしてしまうと、平常心で話をすることも難しいです。

また、持込みの場で何を話せば良いか、言われたことにどう対応すればよいか、経験が重要です。ベテランのプロであれば、1回の打合せで済むことに、1年かかってしまう事も、新人には多々あります。

 

2、自分がどこの編集部や媒体と組んで仕事をすれば良いか、正しい仕事先を探す(マッチング)

好きな雑誌、好きな媒体が、イコール自分が仕事として組める最適な相手ではない場合もあります。

そもそも、それぞれの雑誌や媒体が、どこを目指していて、どんな新人(仕事相手)が欲しいのか見極めるのは、実は経験と目利きが必須です。例えば、自分が好きな作品だけ読んでも判りません。雑誌なら雑誌がどこを目指しているか、誰を読者と考えているか、良く理解して作品を作る理解力が必要です。

 

これらの問題解決、「正しい努力の見つけ方」と「正しいマッチング」(アンマッチング防止)を目指し、トキワ荘PJでは「編集長の部屋」コーナーを開始します。

 

ここでは、ゲーム攻略本のように安易な「攻略法」を書く気はありません。今まで350人以上の志望者を支援し、プロになれる人、なれない人を身近に見てきた私たちなりの質問で、現場の最高責任者である編集長やそれに近い立場の方から、生のお話をうかがいます。このコーナーが、多くのマンガ家志望者、新人作家の羅針盤となることを目指し、その先にマンガ業界の発展があることを信じて、努力してまいります。

第1回は、アフタヌーン編集部の宍倉立哉編集長にお話をうかがいました。目指す姿、欲しい作家像、編集部の構造など、まとめて公開する予定です。毎月、新しい編集部などに話をうかがい、いくつかに分けて、1週間に一度更新していく予定です。

<編集長の部屋 Top>

(*1): ある程度の販売数のある紙媒体に限る。他、電子書籍によるデビューや、いわゆるマンガ家とは違う形でプロとなったものも多数。例:電子コミック専門の作家、マンガ編集者、ソーシャルゲームアプリ企業に就職、日本画家、イラストレーター、など。

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