漫画家・山野車輪先生によるトキワ荘講習会の講義録公開!

イベント情報
2010.08.12
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(写真中央)山野車輪先生

2010年7月20日(火)に開催しました、『マンガ嫌韓流』シリーズや『「若者奴隷」時代』の作者山野車輪先生によります【トキワ荘プロジェクト漫画講習会】の講義録です。本講義録の公開にあたって、山野車輪先生に内容の確認をしていただきました。ご協力ありがとうございました!
☆山野車輪先生のTwitterアカウントhttp://twitter.com/sharinyamano


(1)今後の漫画産業について

Q.出版市場の現状はいかがでしょうか?
A.出版産業は2009年の推定販売額が2兆円を21年ぶりに割りました。今後、1兆3000億円程度まで下がると思います。対して2009年の漫画産業は、単行本週刊誌などの全体で4500億円程度と推計されています。(以下同様に”『出版指標年報2009』”より引用)

Q.コミックスの新刊点数は以前に比べて増えていると言われますが…
A.確かに新刊点数は95年の6721冊から、09年の11,927冊と増加していますが、一方で売上を比べると、95年の2,507億円から09年の2,274億円と減少しています。新刊点数が倍近くにも増えているにも関わらず、売上が落ちているというのは、作家一人当たりの収入が相当減っているということを意味します。また、この新刊のうち約10%はコンビニで販売されている廉価軽装本ですし、完全版などの判型変えての出し直しも含まれております。

Q.新人漫画家にとって今後の漫画産業はどうでしょうか?
A.紙媒体(漫画雑誌)はベテラン作家さんの連載が長期化する傾向にあり、連載枠が空かないので、昔のように「雑誌に掲載すること」だけでデビューを目指していくことは、新人にとっては非常に厳しいです。誰もが知っている有名漫画雑誌でも、15年前と比べて現在の発行部数は半数以下。各誌はそれでも発行部数を維持するために、5~10年選手の連載を継続させ、運営を維持するのは無理ない事情があります。昨年来、廃刊に追い込まれる雑誌の数も増えてきました。

Q.今後漫画を売るにはどうしたらいいのでしょうか?
A.漫画のコミックスに限らず、作品は作家の知名度で売れていくようになっていきます。出版社は、知名度のない作家の本は、出版に踏み切りません。そういう意味で作家個人のブランド力が大事。作家としての周知活動を行う必要があると思います。作品が面白いのは当然で、現代は面白くても売れるかどうかわからない時代です。twitter、Ust、ニコ生、ニコニコ動画・静画、pixivなどあらゆる媒体を活用してください。あと、自分は編集者と「都知事選に出たら、すごい宣伝効果があるのでは」と話したりもしています…(笑)実際に出るかどうかは別として、これから漫画家を目指す人は、それくらい自由な発想でやって欲しいですし、やらないと生き残れないでしょう。試行錯誤して10個やって、1個成功すれば良いんです。

Q.雑誌の採算ラインは、どれくらいでしょうか?
A.とある漫画雑誌では、1冊雑誌を作るのに4000万円かかるという話を聞きました。その雑誌は実売13万部で休刊しました。確かに1冊300円とすると、単純計算で13万部が採算ラインとなりますね。

Q.電子書籍については?
A.2010年は電子書籍元年と言われ、基本的に早くやった人勝ち。何でもそうですが、最初にやった人はリスペクトされます。今、新人や漫画家志望者で漫画業界に参入しようという人は雑誌に拘らず、電子書籍で発表するのはアリですね。ちなみにAmazon自費出版は売上の3割がAmazonで、7割が著者という取り分です。池田信夫さんの『アゴラブックス』のようにiPadなどで読める電子書籍も、今後増えると思います。

Q.今までとこれからで、漫画の表現は変わると思いますか?
A.今の漫画は、大半が紙媒体向けに描かれていますが、当然、電子書籍などに向けて、紙媒体に縛られない表現方法になってくるでしょう。あと、国内だけでなく、海外で売り出すために、海外に向けた漫画を描くのもアリだと思います。

Q.漫画のキャラクタービジネスについてはどうお考えですか?
A.漫画は、よくキャラクター重視だと言われていますが、キャラクタービジネスとしてはアニメなどと比較すると強くないです。それは漫画がアニメのようなキャラクタービジネスとしてのビジネスモデルで作られていないからです(漫画のキャラクターがグッズ化されるとしても、大半はアニメ化されてからのはずです)。

Q.漫画産業はこれからどうなっていくと思いますか
A.今までの漫画業界は、「マス」(大きな市場)に売っていましたが、これからは個人向けになると思います。たとえば既にあるもので、結婚式の馴れ初め漫画。今後は、個人の自伝漫画や言論家の文章をコミカライズしたものも増えるんじゃないでしょうか。

Q.最近、山野車輪先生が注目しているコンテンツの事例を教えてください
A.(漫画とは異なりますが)『ブラック★ロックシューター』は、元々はpixiv発のキャラクターで、ニコニコ動画にそのキャラクターを扱った動画が投稿され注目を集めました。その結果、キャラクターの商品化がされ、無料DVDによるアニメが配布されています。こういった出版とは関係ないところで絵描きが出てきていて、作家個人がコンテンツメーカーと繋がって売り出すことも可能なのでは、と感じます。
もう一つの例として自分の『「若者奴隷」時代』と同じように世代間格差を扱った作品で『ジェネレーションブラザーズ』というのがあるのですが、こちらも自分の本と同じようにプロモーション動画を作って(しかもこちらは声優を起用し)ニコニコ動画で宣伝し、販促しているようです。

Q.電子書籍が注目されていますが、町にある書店はどうなると思いますか?
A.単なる本を売るだけの書店は減り、音楽や映像、キャラクター商品などの販売も含めた「コンテンツコンビニ」のようになると思います。

Q.今後、漫画の制作現場はどうなると思いますか?
A.5人くらいの漫画家とフリーの編集者、そしてWEBや電子書籍などに長けた技術者が組み、活動するのではないかと睨んでいます。技術者については既に、自分自身に需要があるくらいです…。同じような作家さんも多いのでは。あと漫画を制作し宣伝するにあたって、その費用の捻出のために、アニメで用いられている、いわゆる製作委員会方式で、複数の企業から資金を集めるやり方はどうかなと思っています。アニメやゲームだけではなく、漫画でもキャラクタービジネスをしてもいいのでは。

 

(2)参加者より質疑応答

Q.雑誌に載るのが一番知名度が上がるのが早いでしょうが、雑誌に載った後にインターネットで発表するのはどう思いますか?
A.良いと思います。仮に雑誌の発刊部数が10万部あったとすると、それがコンビニや駅売店に置かれるわけだから、ものすごい宣伝効果はあるでしょう。でも、雑誌に載せるのには非常に高い壁があります。だから、雑誌に掲載されるよう努力しつつ、ネットもやると良いのでは。

Q. 先ほどお話にあった『ジェネレーションブラザーズ』では声優を使っているというお話でしたがが、どうやって声優を探したのでしょうか?
A.自分も第3者の立場ですので、個人でやったのか、出版社が捉まえてきたのかは不明です。ただ、声優も仕事に困っているでしょうから、声をかければやってくれるのでは?声優に限らず皆、他業種の人と繋がりたいと思っているでしょうから、今後は、他業種の人とタッグを組んで仕事をしていけば良いと思いますよ。

Q.現在、個人的に現在iPhoneアプリを作っているのですが、海外に売るための良いアイディアはありますか?
A.まずは翻訳してくれる人を見つけることですね。あとはもう、自分で漫画賞を作ってしまって「漫画賞○○で1位を獲得!」という広告が出してしまうとか…(笑)とにかく、やり方を自分で縛ってしまっては駄目です。

Q.トキワ荘プロジェクトではTVや新聞などの取材が多く来ていて、そこで、入居者に取材を受けませんか?と聞くのですが、皆に嫌だと言われてしまいます。もったいないと思うのですが、どうお考えですか?(トキワ荘プロジェクト事務局より質問)
A.非常にもったいないです。先ほど言いましたが、これからの作品は作家の知名度で売れていきます。TVに出ることは、自分の名前を少しでも売るチャンス。せっかくトキワ荘プロジェクトにいて、そういうチャンスがあるんだったら、その場で掴まえられなければ、今後も掴めないでしょう。

Q.今、携帯・WEBコミックは、TL(ティーンズラブ)・BL(ボーイズラブ)が多いですが、今後どうなっていくと思いますか。
A.携帯は、今後もその傾向が強いと思います。実際、私の知り合いでも、携帯・WEBコミックでお金持ちになった人がいますよ。WEBで少女・少年漫画を売っていくのも、アイディア次第です。

Q.売れるコンテンツを持っていない新人は、自費出版というかたちをとるしか、出版出来ないのでしょうか?
A.WEBで作品を掲載することで、出版社側からアプローチしてくる場合があります。私の『マンガ嫌韓流』もそのパターンで、2社からオファーがありました。他の作家さんで『ぼく、オタリーマン。』、『きょうの猫村さん』も同じパターンですね。

Q.山野車輪先生が、次にしようと思っていることを具体的に教えていただけますか。
A.今日、話しているような内容(紙媒体はもう厳しい等)を漫画にしようと思っています。

Q.これから電子媒体が伸びると思いますが、読者層はどうなると思いますか。
A.基本的には若い人が多いのではないでしょうか。

Q.(山野車輪先生の新しい本について)出版社は目処をつけているのですか。
A.今回は技術的なことについて書いている本なので、Twitterに関する書籍なども出版している会社さんから出版できるように進めているところです。

Q.既に電子書籍を販売しているサイトもありますが、あまり上手くいっていないようです。その点についてはどう思われますか?
A.マーケティングがまだ上手くいってないのでは。そこが上手くいけば今後伸びていくと思います。

Q.アシスタント経験はどれぐらいあった方が良いでしょうか。
A. 基本的には半年ぐらいで良いのではないでしょうか。アシスタント経験は、無いよりもあった方が良いと思います。でも、長くやり続けると、ぬるま湯に浸かってしまうので、気をつけた方がいいです。

Q. 先生は持ち込み時代、プロットから完成原稿まで、どれぐらいの時間がかかっていましたか。
A. 持ち込み時代は、アシスタントをしながら、1ヶ月に1本は作っていました。とにかくプロを目指している人は数を作ること。持ち込み時点で1ヶ月に1本作るぐらいの覚悟が無いのなら、漫画家になっても量産できず、続けていくことが出来ません。

Q.漫画制作に役に立つこと、漫画を描く以外でした方がいいことはありますか
A. 漫画を読み描く以外の経験をすること。漫画を読んで、漫画を描いていたら、漫画の枠をはみ出すことが出来ず、「サンプリング漫画」しか描けません。漫画以外の本、映画、実体験などいろいろな所に顔を出してください。

Q.良い編集者に出会うのは、ほぼ運でしょうか?
A. 10人ぐらいに会えば、少なくとも1人ぐらい相性の良い編集者がいます。ですから、沢山の編集者に会って下さい。そのために、漫画を沢山描いてください。

Q. 背景の描き方、資料の集め方はどうすれば良いでしょうか?
A.普段からデジカメで撮影し、PCで保存しておくこと。そうすればいざという時、役立ちます。

Q. どんな人がデビュー出来ると思いますか?
A. 頑張る人。沢山量を描ける人です。

Q.作品を見るとき、どこを一番重要視しますか?
A.個性、作家性です。この場合、出版社に利益を与えられそうな個性ですね。作者の個性が販売部数につながりそうな人ほど注目されます。

Q.以前、持込に行った際、名刺を貰ったが、どういう意味でしょうか?
A. とりあえず可能性があると思われているのではないでしょうか。ただし、編集部によって違うので、要注意です。

Q.10年後の漫画産業はどうなっていると思いますか?
A. 紙の出版業界(漫画以外も含む)は、個人的には1兆3000億ぐらいで下げ止まると思っています。その中で生きていくか、電子書籍に活路を見出すかではないでしょうか。紙媒体でいく人もいれば、電子書籍で売り出していく人もいると思います。また現代の漫画家は、今後、インターネット上に作品をアップロードする技術など、技術力をつける必要があります。

Q.10年後の同人誌についてはどうでしょう?
A. 同人誌のパイも大きくなっているのでは。ちなみに同人誌で利益を上げる人は3000部ほどをさばいています。単純に1冊1000円とすると3000部=300万。印刷代3割として、210万の利益になります。ちなみに現在は、同人誌の最大級のイベントであるコミックマーケットは男女比でいうと男性43%、女性57%、平均年齢は男性は28.6歳、女性は28.3歳(”『コミックマーケットとは何か?』”より引用)。同人誌全体の市場は、100億円程度ではないかと推計しております。

Q.出版社で受賞した作品を、電子コミックサイトから買い取りたい、と言われているのですがそれはお金がかかりますか?
A.  出版権を出版社が持っていると思います。その権利が電子書籍にまで及ぶのか、は出版社に確認すべきです。

Q.新人漫画家が入りにくい雑誌は何ですか?
A. 若い新人漫画家は、実際に社会に出て働いたりした経験に乏しく、青年誌は厳しいように自分は感じます。そういう点では、少女漫画・少年漫画は、まだ入る余地があります。特に少女漫画は1人の作家で10年持たないほど、回転が速いです。ただ少年漫画も、某雑誌は連載枠が20作品程の中で4作品が10年以上連載、4作品が5年以上連載と、長期連載の作品が多いので、新人漫画家が入りにくいです。長期連載が多いのは少年漫画に限ったことではありませんが…。やはり新人漫画家は紙以外にも積極的にチャンスを見出すべきだと思います。

Q.トキワ荘プロジェクトとして、電子書籍のオーサリングの仕事を漫画家志望者に進めてみようと検討しています。このことについてどう思いますか?(トキワ荘プロジェクト事務局より質問)
A.  良いことだと思います。今の漫画家に足りないのは、技術力なので、極端な話、無給でもやるべきでしょう。

Q.プロ漫画家を目指している人には、デビュー出来ればゴールだと思っている人が多いように思うのですが…
A. 確かにそのように感じます。しかし、デビューはスタート地点に立ったに過ぎません。まずはどうやったらスタート地点に立てるかを考え、デビューしたら次はどうやって維持するかを考えてください。今の若い人は、ガツガツしたものが足りないように感じます。

Q.モチベーションの高め方にはどのような方法がありますか
A.ライバルがいることが大事です。競争してください。

Q.漫画家志望者が読むべき本はありますか?
A.『電子書籍元年』(田代真人/インプレスジャパン)、 『マンガ産業論』(中野晴行/筑摩書房)。この2冊はオススメですよ。

 

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