編集長の部屋(2)前編:コミックゼノン花田健編集長
「編集長の部屋」コーナーお2人目は、コミックゼノン編集長、花田健さんです。
<前編>
制約がなければ、どこまでも面白いマンガが作れるという思いもありました。
――花田さんご自身のことを聞かせてください。
2001年にコアミックスと言う会社が「漫画雑誌を創刊する」として、現社長の堀江信彦(*1:)が起業した際に求人で採用された最初の社員たちの一人になります。それまでは、白夜書房というところで、パチンコやパチスロのマンガなどを編集していました。当時はまだ20代後半で、無限かつ根拠のない自信もあったので、パチンコという制約がなければ、どこまでも面白いマンガが作れるという思いもありました。前会社時代は予算がなくて、ジャンル誌という中でパチンコのマンガを作っていましたが、その中であえて高校生を主人公にする作品(勿論、未成年はパチンコが法律で禁止されています。)などにチャレンジしていました。
*1: 堀江信彦(株)コアミックス代表取締役社長。漫画原作者・脚本家。『週刊少年ジャンプ』の編集者として北条司や原哲夫を見出し、『キャッツ❤アイ』・『シティーハンター』や『北斗の拳』・『花の慶次』など数々のヒット作品を生み出した。1995年、『週刊少年ジャンプ』5代目編集長の時に歴代最高部数653万部を達成。2000年6月(株)コアミックスを設立、代表取締役に就任。新潮社とともに青年コミック誌『週刊コミックバンチ』を創刊し、『エンジェル・ハート』(北条司)や『蒼天の拳』(原哲夫)などのヒット作を世に送り出す。2010年には『月刊コミックゼノン』を創刊。現在は原作家、脚本家として作品を作ると同時に、編集者の育成に携わり、作品の質の向上に力を入れている。
当時、新しい漫画誌が創刊されても、だいたいすぐに無くなってしまう時代で、『シティーハンター』や『北斗の拳』などを創った方々が雑誌を作るという話を聞いて、これがコケてしまったら、もう新しい漫画雑誌は創刊されないだろうという思いがありました。転職する気は全くなかったのに、たまたま転職雑誌をコンビニで手に取って、この話を知り、応募しました。ゼノンの前身の週刊コミックバンチ創刊の半年くらい前のことです。
月刊誌創刊だと思い込んでいたのですが、面接で「週刊誌を作る」と聞かされ驚きました。半年くらいの準備を経て、『週刊コミックバンチ』を創刊しました。堀江も、大手出身ではなくて、予算の少ないパチンコ誌で編集をしていた私が新鮮だったようです。
創刊当時は、『株式会社大山田出版仮編集部員山下たろーくん』や『屈辱er大河原上』という作品などを担当していました。
――印象に残っている作家さんは
やはり、原哲夫先生と北条司先生ですね。
――おおお、やはりですね。まずは原先生のお話しからうかがいましょうか。
原先生に関しては、とにかく演出ですね。こういったらなんですが、大したことないエピソードでも、演出でとても面白くする力が原先生の凄い所だと思います。
例えば、新しいキャラクターの登場シーンひとつとっても、原先生は綿密に描かれます。キャラクターが登場する際に、見開きページの最後に「クチャックチャックチャッ」みたいな、嫌な感じの音がして「何だろう?」と思わせておいて、次のページでバーンッ!と嫌なキャラが出てきたりします。
――目に浮かびますね。
他にも色々と原メソッドがあって、登場シーンでは特にキャラの頭を切らないとか、主人公キャラは哺乳類顔、敵役キャラは爬虫類顔にするなど、沢山の方法論を持って描かれています。
原先生の場合は、緩めのシナリオをお渡しすることが多いのですが、自身の持ち味は、そこから先の絵の描きこみや演出などであると、はっきり考えていると思います。最近はストーリー重視の作家さんも多いですが、原先生には、演出ひとつで作品を面白くすることが出来るという事を叩きこまれました。
――一方、北条先生はいかがですか?
北条先生の打ち合せは雑談のような話がほとんどで「あーかな?こうかな?」という話に終始します。原先生もそうですが、北条先生も結末を決めずに作品を作ります。1シリーズで数話分を作るとして、先の展開をあまり決めすぎて描いてしまうと、作り手が結末を知った状態で演技をさせてしまいます。特に週刊誌の作品はライブのようなものなので、キャラクターが結末を知る神様目線になってしまうと面白くなくなってしまいます。
そもそも、北斗の拳からして、10話のシンが死ぬシーンから、その後連載が続く事が決まってケンシロウに兄弟がいることになったそうですからね。10話で打ち切られなかったので、ケンシロウは四郎だから、兄が3人いたかもね。なんて言って、ラオウやトキが考えられたそうです。
――へー!
今は月刊誌なのですけれども、エンジェルハートなども同じように作っています。ちょっとページが長いので、その中に2つヤマを設ける為もあって、一話を2回に分けて打ち合せしています。
――最近、ネット上では竹熊健太郎さんが「新人はプロットが作れない」ということをおっしゃって話題になりましたが。
えぇ、北条先生も、プロットは作ります。さっき話した雑談がプロットになりネームになります。ストーリーものの場合はエンドレスなプロットが作られていくということなのでしょうね。
――とすると北条先生の特徴は?
構造と言うか、圧倒的に読み易いコマ割りですね。私は、新人さんと話をする時は、手元のゼノンを取り出して、『エンジェルハート』のページを開いて、コマワリの構造について説明します。全てのページで、トメの位置、キャラの距離感が判る構成など、必要な要素が入っています。北条先生は比較的ページあたりのコマ数が多いのですが、カメラアングルが優れていて、とても読み易いことが特徴だと思います。
――構成力ということなのでしょうか?
状況をセリフに頼らず描くところが凄いです。その後のキャラクターのリアクションや構図で表現することにおいては達人だと思います。よく新人さんに話すのは、人物を寄り過ぎて描いている人に、この時にこのキャラの見えていない手先なんかはどうなっているの?手を握っているの?開いているの?などということを聞きます。
――話をうかがうと、ゼノンという雑誌に原先生、北条先生がいかに影響を与えているかが判りますね。
――花田さんにとって、編集者とはどんな仕事ですか?
一番は作品創りをする上での相談相手であり、マネージャーであり、プロデューサーであり、エージェントでもあるかもしれません。まあ、漫画づくりの雑務全般をする人でしょうか。
――編集者にとって、一番良い仕事とは?
色々あると思いますが「売れる作品を創ること」と答えるようにしています。
読切掲載専門のピンクページは単行本にならないので雑誌としては赤字ですが、意地で続けています。
――現在の、月刊コミックゼノンの成り立ちを教えて下さい。
『週刊コミックバンチ』については、新潮社から堀江に、一冊丸ごと漫画週刊誌の編集を任されて始まりました。創刊して10年経って、堀江としても残りの現役として働ける自分の時間の中で、リスクを負ってでも自分たちの思う漫画誌を創りたいと考えて、販売面を徳間書店さんに担ってもらう形で発刊したのが、現在のゼノンです。
現在は一部の単行本や『ボノロン』という絵本などは自分たちで販売を行っています。ゼノンは今年10月で創刊から4年目を迎えます。ちなみに、新潮社で続いている@バンチ編集部とも、仲良くやっています(笑)
――花田編集長は、ゼノンをどうされたいと思われていますか?
難しいですね。でも、まずは沢山売りたいですね(笑)
漫画雑誌と言うものは「コミックを売るためのカタログ」という向きが強いと思うのですが、少しばかり抵抗しようと思い「新人さんを発掘する場であることが漫画雑誌の忘れてはいけない使命ではないか」ということを肝に銘じてます。
それが、今の雑誌の後半にあるピンクのページを設けることですね。「読切を雑誌に載せることを新人さんの目標にしてもらおう」としました。
――そこは新人だけなのですが?
全てではないですが、ほとんどそうです。毎号必ず新人さんの読切作品を掲載しています。一度載せることによって、作家さんは色んな経験やアンケートのフィードバックをうけるので、意味のあることだと思っています。主要雑誌を見渡しても、必ず読切が載っているという雑誌は少ないので、そのアピールの為に、外から見ても分かるように紙の色をピンクにして読切を掲載しました。聞くところによると、週刊少年ジャンプも、このピンクに黒印刷のページが人気であったと言われていました。読切掲載専門のピンクページは単行本にならないので雑誌としては赤字ですが、意地で続けています。
<前編ここまで>
中編:主人公が成長していく様を見せていくのが重要なのではないかと思っています。
インタビュー・ライティング:トキワ荘プロジェクト 菊池、番野
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