編集長の部屋(2)後編:コミックゼノン花田健編集長
「編集長の部屋」(2)月刊コミックゼノン編集長、花田健さん(後編)です。
- 前編「読切掲載専門のピンクページは単行本にならないので雑誌としては赤字ですが、意地で続けています。」
- 中編「主人公が成長していく様を見せていくのが重要なのではないかと思っています。」
<後編>
新人さんに重要なのは、丁寧かどうかです。
――どんな新人作家が、担当編集者付になるのですか?
漫画賞(半年に一回)でも、サイレントマンガオーディション(2か月に一回)でも、それぞれ最終選考に残した人は、必ず担当がつくようになっています。
――単純計算で賞だけで年間5~60人位が担当付になるということですね。
そうですね。他にもこちらからお願いする作家さんや、持込みからいきなり掲載に至る人もわずかにいますが。
私たちも、賞金を出している手前、その分の貢献をしてもらえるようにしっかりお付き合いをしていきます。
――賞では、新人の何を見ていますか?
極端に言えば、絵柄と演出です。
絵柄と演出でゼノンに載っておかしくない作家を選んでいるというところですね。大きく「絵と話のどちらに比重を置くか?」と言えば絵です。話は、まだ編集者が助けられますが、絵はこちらではどうにもならないので。
――絵とは具体的には?
絵についてはポテンシャルです。その時点で上手い下手と言うこともありますが、重要なのは丁寧かどうかです。雑な方は、細部に神経が行き渡ってないので、それは後々作品作りにも出てくると思います。
――週刊誌と月刊誌では求められる人材像は違いますか?
本質的にはそれほど違わないと思います。確かに、短距離中距離と言う意味では、使う筋肉は違うかもしれませんが、根っこでは変わらないと思います。ただ、週刊作家の場合は、収入も支出も多いので、根性みたいなことは必要というか、身に付くと思います。
最近、プロアシスタント(以下、プロアシ)さんの年齢向上が、結構問題ではないかと考えています。今は、新人作家さんよりプロアシさんの方が10歳以上年上ということもよくある。10年先輩のプロアシさんに、新人さんは指図をしにくそうですね。頼んだ絵がイメージと違うけど言えなくて、自分で描き直している新人さんを見ます。
一方で、アシスタント経験がないと、自分がアシスタントしたことがないので、頼み方すらわからず、後で困る事もあるかも知れません。
――新人賞について年齢制限などは?
特にないです。今回の新人賞の一番上は38歳でしたね。
――掲載ページ数について考え方はありますか?
作品の性質にもよりますし、特に決めてはないのですが、45ページ位だと4ヶ月で単行本が出せます。その量が毎月描けなくて、37ページ位でなんとかという人の場合は5ヵ月で単行本を1巻出すというような調整はしています。
海外も視野に入れた「サイレントマンガオーディション」を開始しました、53の国と地域から、514作品が集まりました。
――ゼノンさんは、ユニークな新人賞を持たれていますよね。
ゼノン創刊時に、どうすれば沢山の新人さんが来てくれるか、かなり考えました。
そこで、ページを短く、演出を中心に描けば投稿できる賞を作りました。その取組が漫画を扱う大学や専門学校などに好感触で、沢山の応募作が集まり、その中から単行本を出した作家も出ています。
その結果を受けて、昨年、海外に向けて「サイレントマンガオーディション」を開始しました。第1回のテーマは「ラブレター」で、53の国と地域から、514作品が集まりました。それほどお金をかけない広報でこれだけ集まったので、手応えを感じました。
沢山の応募が来たので最終選考作品を決める際、一作品につき編集者2人が読めば良いとしましたが、多くの編集者が自分の分担以上の作品を読んでいました。最終選考は、堀江・原・北条・次原でしたが、とても面白いということになり、一冊の本にまとめました。一回目はインドネシアの投稿が非常に多く、グランプリはインドネシアとタイの作家が取りました。この結果もゼノンに載せようと思い、1回目はページを緑にして掲載しました(笑)
2回目は更に増えて、65の国と地域、600作品以上の応募が来ました。大賞はブラジル人でした。なんとジンバブエからの応募もありました。
賞金は、日本と同額にしました。国によっては年収位のお金になったと思います。その結果、凄いインパクトになったようで、タイとインドネシアの投稿者が2回目はかなり頑張っていました。
facebookページ上で中間発表をしたところ、インドネシアとタイの応募者がかなり張り合っていました。それぞれの国でのSNSでも、そういうやり取りがあったそうです。
私たちは、それぞれの国でマンガを描けるようになり、人気マンガ家が生まれてくれたら良いなと思っています。ちなみに、先日、宇宙飛行士の若田さんが、宇宙ステーションで読んだ電子書籍の中のひとつはこの賞で選ばれたタイ人投稿者の作品です。
――堀江社長は、先日のイベントでは、海外にゼノンの編集者さんを出したいとおっしゃっていましたね。
はい、しきりにそうしたいと言っていますね。
ただ今のアジアではマンガは高級品なので、昔の日本のように少しずつ小銭で買える娯楽としてどのように販売していくかということが課題です。
――ゼノンさんには、新人の為の仕事場があると聞きますが。
バンチ時代から、新人さんが連載貧乏にならないように、仕事場を用意してきたという伝統があります。
連載をしようと、作家さんが部屋を借りたり機材を買ったりすると、お金が沢山掛かり、作品が売れないと借金を背負うということがあります。それを防ぐ為に、大きな部屋を借りずとも仕事場を編集部が用意して、そこで作品を作り、しかもアシスタントさんもゼノン関係から確保できるようにということで始めました。
――これは、原先生や北条先生の部屋として元々用意されたとも聞きました。
今も、原先生北条先生の仕事部屋があります。アシスタントさんや新人さんには、大部屋が用意されてみんなが作業しているようになります。24時間利用可能で、各作家が執筆している。場所はゼノン編集部の近所(吉祥寺)です。
撮影:まつもとあつし
2014/2/19にトキワ荘PJが開催した「これからの編集を語る」イベントの様子、中央が堀江信彦社長。
右がコルク社佐渡島庸平、左がトキワ荘PJの菊池。
絵から感じる執念が何より凄いです。
――ライバル雑誌やライバルにあたるものは何かありますか?
特に明確な意識はしていませんが@バンチの部数は気にしています(笑)
『WEBコミックぜにょん』というのをYahoo!ブックストア内で公開していますが、雑誌にはない早い反応があるので、非常に面白いです。電子書籍は、媒体としても多くの方が見る可能性があると思っているので、何か面白い事が出来れば良いなと考えています。
うちで言う、ピンクページの読切掲載など、そういう場も使ってやっていきたいとも考えています。
この「編集長の部屋」という取組は、ほんとに良いと思います。編集者はそんなにえらいものではないですし、そういうことをこのコーナーで知ってくれたらいいですね。
――今、一押しの作品を教えてください。
現在ゼノンに連載中の、大久保圭『アルテ』です。
フィレンツェで絵描きを目指す女性を主人公とした話です。
最近のゼノンの新作は、主人公や作家さんの半径5mに収まる身近なお話が多かったのですが、この作品は、縦軸と我々が呼んでいる、主人公の成長物語を描いています。まだ女性が絵を描くことに寛容ではない時代で、チャレンジをしている女性主人公を描いていて、私も先が楽しみな作品です。
――どういったところが魅力ですか。
絵から感じる執念が何より凄いです。町並み、市場など、作品にとって絶対に必要というわけではないところの絵が、本当にしっかりと描きこまれています。その努力が、街の息吹や時代の背景を活き活きと表すことになって、とても良い作品になっていくであろうと期待しています。
<後編ここまで>
インタビュー・ライティング:トキワ荘プロジェクト 菊池、番野
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